なぜ手袋を通り抜ける?透過のメカニズム
目次
化学物質が分子レベルで素材の中をすり抜ける
「透過」とは、材料の表面に接触した化学物質が、素材に吸収され、内部に分子レベルで拡散を起こし、裏面から離脱する現象のことです。
・・・と言われても、「ちょっと難しくてよくわからない」という方が多いと思います。
ざっくり言うと透過とは「ある物質が、壁や膜のような仕切りをすり抜けて、反対側へ移動すること」を指します。
イメージしやすい身近な例で説明しましょう。

ゴム風船
ゴム風船は時間が経つとしぼんでいきますよね?
これは決して口の結び目が緩いからだけではありません。
ゴム風船をミクロの視点で見てみると、ゴムの分子が複雑に絡み合った「網目構造」をしています。
ゴム風船の中で起きていること
1. ゴムの隙間をすり抜ける
ゴムの網目は、私たちの目には隙間がないように見えますが、空気の粒(酸素や窒素の分子)にとっては、通り抜けられるくらいの隙間があります。

2. 圧力に押される
風船の内側は外側よりも気圧(圧力)が高いため、空気の分子は猛烈な勢いで壁にぶつかっています。その拍子に、網目の隙間へグイグイと入り込んでしまうのです。

3. 外へ脱出する
この隙間に入り込んだ空気の分子は、そのまま反対側(外側)へ移動し、最終的に外へ飛び出していきます。
ちなみにお祭りなどで売っているヘリウムガスの入った浮く風船が、普通の風船よりも早くしぼんでしまった、というのを経験したことはありませんか?
これはヘリウムの分子が空気の分子と比べて圧倒的に小さいからなのです。
体が小さいヘリウムは、ゴムの網目の隙間をよりスイスイと通り抜けてしまいます。
そのため、ヘリウム風船は普通の風船よりも早くしぼんでしまうのです。

耐透過性に関する実験
百聞は一見にしかず。透過をイメージできるような実験をしてみましたのでこちらの動画をご覧ください。
動画内ではニトリル手袋からの目に見えるエタノールの染み出し(浸透)はありませんでしたが、ガス検知管で測定するとガラス瓶からはエタノールが検出されました。
このことからニトリル手袋をエタノールが通過してガラス瓶内へ移動していることが分かります。
これが透過という現象です。
ゴム風船の例もこの実験も、内部の圧力が高いから外に押し出されているように見えます。
手袋の外側に付着した薬品ってほとんど圧力がかかっていない状態だと思うのですが、それでも透過はするのでしょうか?
とても鋭い視点じゃ。たしかに手袋の外側に薬品がついた場合、そこには風船のような強い圧力(押し出す力)はかかっていない。
その代わりに、化学物質が持つ「広がりたい」という性質が働いてるんじゃよ。
物質には「濃度が濃い場所から薄い場所へ」と広がろうとする性質(拡散)があります。
例えば部屋の中で香水をシュッとひと吹きすると、風がなくても部屋の隅まで香りが届きますよね。
これは香水の分子が勝手に動き回って、濃度の薄い方へと広がっていくからなのです。
同じように、薬品が付着した手袋の外側は「薬品がいっぱい(高濃度)」で、手袋の内側は「薬品がゼロ(低濃度)」ですので、この「濃度の差」を埋めようとして、化学物質は自ら手袋の素材の中に溶け込み、内側へと移動していきます。
これを専門用語で「濃度勾配(のうどこうばい)による拡散」と言います。
化学物質とゴム手袋の相性
それだけではありません。
手袋に付着する有機溶剤などの化学物質は、ゴムそのものを溶かしたり膨らませたりして中に入り込む性質が強いものが多いのです。
そのため、圧力がなくても、化学物質と手袋素材同士の相性が良いと、まるでスポンジが水を吸い込むように、化学物質はスルスルと手袋を透過して皮膚に到達してしまうのです。

透過のリスク
このようにして化学物質は内部に侵入してくるのですが、透過の現象は、動画でも見ていただいたように目には見えず、また手袋内部や手が湿ったりするようなことはほとんどありません(※もし湿っているようなら大量に化学物質にばく露していることになりますのですぐに適切な手袋に切り替えてください)。
手袋上にキズやピンホールなどの欠陥や外観上の異常がなくても化学物質は透過してきますし、また刺激性のない化学物質も多いので、気付かないうちに化学物質にばく露してしまうという点が透過の恐ろしいところです。
まとめ
今まで使っていた手袋で、手も汚れないし、濡れることもない、穴があく前に交換している、だから問題ない、と考えるのは危険です。
目に見えない化学物質の透過を防ぐことができる手袋なのかどうか、この機会に手袋メーカーの耐透過性データを確認してみましょう。
→ホゴスルを使って確認する
さて、手袋を透過して手に付着した化学物質はどうなるのか。
この続きはコラム「化学物質の経皮吸収」をご覧ください。